「デスクワーク一筋だった自分に、体を使う仕事ができるのだろうか」。そんな不安を抱えている方に読んでほしい体験談です。今回お話を伺ったのは、東京都でホテルの施設警備として働くケンジさん(仮名・63歳)。ITエンジニアとして働いていた55歳のとき、心と体の不調をきっかけに仕事を離れ、そこから警備の世界に入って8年になります。
夜勤ありの週5日勤務で月25万円。数字だけ見れば順調に映りますが、そこに至るまでには「50代半ばで仕事が決まらない」という壁がありました。ご本人の言葉に、シニア採用に携わってきた私が「採用する側から見るとどうか」という解説を添えてお届けします。
※この記事は、当サイト「実体験ラボ」の対面インタビュー(2026年7月実施)をもとに、ご本人の掲載同意を得て構成しています。お名前は仮名、勤務先が特定される情報は伏せ、写真はプライバシー保護のため加工しています。
ITエンジニアだった私が、55歳で警備を選ぶまで
VOICE
前職はIT企業のエンジニアでした。当時は激務で、精神的にまいってしまったこともあり、定年まで10年ほど残していましたが仕事を離れました。半年ほど休養したのですが、いざ再開しようとすると、50代半ばではなかなか仕事が決まりません。社内エンジニアとして勤めてきたので、年齢と合わせると仕事が選びづらかったんです。
フリーランスも考えましたが、座りっぱなしの仕事で腰も悪くしていたので、同業は諦めました。そこで派遣会社に登録したところ、面接ではなくコーディネーターの方との面談がありました。技術があるのでIT系の仕事も勧められましたが、腰のことや精神的に追い詰められた経緯を話すと、「あえてまったくの異業種にしては」と助言をいただいて。体を使う仕事のほうが体調にも良さそうだと感じ、未経験でも間口が広そうな警備に決めました。派遣先は今で3社目、すべて警備です。
夜勤あり・週5日|「聞いていた話と違う」がなかった理由
VOICE
今の勤務は週5日、1日8時間で、夜勤や当直もあります。求人の条件と実際の勤務内容のズレは、とくにありませんでした。派遣だったから、というのはあるかもしれません。契約内容で事前に夜勤があることも把握していたので、すべて了承のうえで勤めています。
採用担当より
採用する側の本音を言うと、夜勤に対応できる方は採用で圧倒的に有利です。夜間の警備には一定の需要が続いており、夜勤を引き受けられることが、そのまま働き口の広さと収入につながります。
もうひとつ、ケンジさんの話で注目してほしいのは「契約内容で事前に把握していた」という点です。会社は選ぶことができますが、入社したら仕事を選ぶことはできません。だからこそ、どういう勤務地・時間帯の可能性があるのかを、応募前にすり合わせておくことが大切になります。警備の業務内容や働き方の全体像を先に知っておくと、この確認がしやすくなります。
夜勤明けの過ごし方を変えたら、体も気持ちも楽になった
VOICE
夜勤の日は、昼から夜中にかけて働き、そのまま仮眠を取って、明け方に交代します。翌日は休みになる流れです。最初のころは、帰宅するとバタッと眠り、起きたら動画を観ながら晩酌して、そのまま寝落ちする日もありました。
最近は、夜勤明けはがんばって眠らずに昼間に行動し、夜早めに寝るスタイルに変えました。そうすると体力的にもかなり楽なことが分かりましたし、なにより気持ちが軽くなった気がします。
ケンジさんが実践した夜勤明けの生活リズムの見直し。眠りすぎず昼に動くことで負担が軽くなったという。
採用担当より
私は面接の場で、「警備の夜勤がきつくて転職したい」というシニアの方にたびたび出会います。実際に、ホテル警備の夜勤明けの負担を理由に、日勤中心の仕事へ移った方を採用したこともあります。つまり、夜勤で辞める人と続く人の分かれ目は確かに存在します。
ケンジさんの話は、その分かれ目が「夜勤明けの生活リズムの作り方」にあることを示す好例です。手取りを取るか、体の無理のなさを取るか。夜勤を続けるにしても日勤に切り替えるにしても、自分の体と相談しながら働き方を調整できる人が、結局は長く働いています。
よかったこと|脳ではなく、体が疲れる心地よさ
VOICE
これまでデスクワーク、いわゆるホワイトカラーの仕事だったので、現場の仕事では求められることが違います。ただ、思った以上に順応できました。体を動かして帰宅したときの疲労感は、これまでの疲れとは別物でした。なにか充実感があるんです。
脳が疲れるのではなく、体が疲れる感じ。思い返すと、学生のとき以来な気がします。人間は心より体の疲労や痛みを優先して認識するらしい、と聞いて納得しました。筋トレがなぜ体にも心にもいいのか、やっと理解できました。
採用担当より
デスクワーク出身の方が現場仕事に順応できるか。これは面接でもよく話題になる不安ですが、ケンジさんのように「求められることが違う」と最初から理解して構えを切り替えられる方は、想像以上にうまくいきます。
逆にうまくいかないのは、前職のやり方や立場を現場に持ち込んでしまう方です。順応の差はスキルではなく、切り替えの姿勢で決まる。採用する側として、これは強調しておきたい点です。
きつかったこと|夏の暑さで5キロやせた年も
VOICE
今はホテルの警備ですが、以前は施設の駐車場で誘導をしていた時期があります。夏は本当に過酷ですし、冬は極寒。外の環境によるきつさは痛感しました。そこはオフィスワークとの大きな違いでしたね。最近は夏がとにかくきつくて、空調服を着ていても汗が噴き出します。5キロやせた年もありました。
だからこそ、水分をこまめに取るなど体調管理は徹底しています。1日休めば稼ぎも減るので、そこは甘えられないところです。休憩は、まめに短く取ることが推奨されているので、わりと融通が利きます。
退屈な時間も確かにあります。日報などの事務作業はありますが、本当に何もないと時間がたつのが遅い。そういうときは休みの計画を立てたり、エンジニア時代の知識を活かして、今後個人で開発ができないかと考えたりしています。
採用担当より
屋外警備の暑さ・寒さは、求人票からは伝わらない一番のきつさです。空調服などの装備で以前より改善されたとはいえ、5キロやせるほどの環境であることは、始める前に知っておくべき現実だと思います。
ここで見てほしいのは、ケンジさんが体調管理を「自分の仕事のうち」として語っていることです。休まず勤務を安定させることは、収入だけでなく、現場からの信頼にも直結します。もうひとつの「退屈さ」も、実は辞める理由として少なくありません。警備のきつさで続く人と辞める人が分かれる理由は、別記事で書いています。
年下の隊長、プライドの高い年長者
VOICE
年下の上司や隊長は、あまり気にしていません。というより、サラリーマンをやってきたので「気にしてはいけないところ」だと思っています。
職場には、自営業をされていて会社をたたんだ年長の方もいます。やはりプライドがあって、正直、扱いにくさを感じることもありますが、そこはうまくかわしながら割り切っています。
採用担当より
シニア採用の現場で、最大のつまずきは体力でも技術でもなく、プライドです。元管理職や元経営者の方ほど、年下からの指示を受け入れられずに浮いてしまうケースを、私は何度も見てきました。ケンジさんが職場で感じている「扱いにくさ」は、まさに採用側が面接で見抜こうとしているポイントそのものです。
「気にしてはいけないところ」と自分に線を引けるかどうか。この割り切りができる方は、面接でも現場でも評価されますし、結果として長く働いています。
収入と年金|「仕事があることがありがたい」
VOICE
収入は月25万円ほど(総支給)です。派遣先によって給与は変わるので、割に合うかどうかは正直分かりません。ただ、そもそも仕事があることがありがたいと思っています。エンジニアを辞めてから復職するまでにきつい時期があったので、ある意味いい経験でした。
年金はまだ受け取っていません。早めの退職でしたが退職金はあったので、貯金を少しずつ使いながら、できるだけ手を付けないように。老後を考えて、年金とうまく組み合わせながら仕事は続けるつもりです。体のほうは、始めたころより立ち仕事に慣れて体力もついてきたと感じます。最初のころより元気になった気さえします。何歳までと言われると分かりませんが、まだまだいけると思っています。
これから始める方に伝えたいのは、体を使う仕事はきつさもありますが、逆に強さも手に入るということです。疲れ方が本当に心地いい。人間、やはり健康が一番です。体を大事にしながらがんばってください。
採用担当より
週5日・夜勤ありで月25万円という水準は、60代の警備の働き方としては収入面で上位に入ります。前の章で触れたとおり、夜勤を引き受けられることが収入に直結する構造が、ここに表れています。そして年金受給前に貯金をできるだけ守り、収入源を仕事で確保しておく設計は、堅実な選択だと思います。
「仕事があることがありがたい」。決まらない時期を経験した方だからこそ出る言葉ですが、採用する側は、こうした姿勢の方を放っておきません。ケンジさんの「異業種に切り替える」「条件を事前にすり合わせる」という2つの判断は、警備に限らずシニアの仕事探し全体に効く考え方だと思います。
まとめ|「決まらない時期」を越えて、体を使う仕事で得たもの
ケンジさんの8年から見えてきたこと
- 50代半ばで仕事が決まらないときは、一人で探し続けず、相談できる相手を持つと道が開ける
- 夜勤に対応できるかどうかは、採用のされやすさと収入に直結する
- 夜勤明けの生活リズムの作り方が、続けられるかどうかを左右する
- 年下の上司やプライドを「気にしてはいけないところ」と割り切れる人が、長く働いている
ケンジさんは最後にこう話してくれました。「体を使う仕事はきつさもありますが、逆に強さも手に入る。疲れ方が本当に心地いいんです。人間、やはり健康が一番。体を大事にしながらがんばってください」。異業種への切り替えも含めて、定年後の仕事全体の選び方は定年後の仕事ガイドでまとめています。
よくある質問
60代・未経験でも警備の仕事に就けますか?
就いている方は多くいます。警備は60歳以上の割合が高く、未経験の間口が広い職種です。特別な技術よりも、勤務の安定性や、指示を素直に受け入れられる姿勢が重視されます。今回のケンジさんも、55歳・未経験からのスタートでした。
警備の夜勤は60代でも続けられますか?
個人差はありますが、続けている方はいます。分かれ目のひとつは夜勤明けの過ごし方です。明けの日に昼間まで眠らず、夜早めに寝るリズムに整えることで、体の負担が軽くなったという声があります。体調的に難しい場合は、面接で日勤希望を理由とともに率直に伝えるとよいでしょう。
デスクワーク出身でも警備の現場に順応できますか?
順応できる方は多くいます。今回のケンジさんもITエンジニアからの転身でした。ポイントは、前職のやり方や立場を現場に持ち込まず、求められることの違いを理解して構えを切り替えられるかどうかです。順応の差はスキルよりも切り替えの姿勢で決まります。
派遣で警備の仕事を始めるのはありですか?
選択肢のひとつとして有力です。コーディネーターに体調や事情を相談しながら仕事を選べること、勤務条件が契約で事前に明確になることが利点です。今回の体験談でも、聞いていた話と違うというズレがなかった背景に、契約時の条件確認がありました。
実体験ラボでは、50代以上の方の仕事体験談を募集しています。お話を聞かせてくださる方はお問い合わせフォームからご連絡ください。掲載の範囲やお名前の扱いは体験談の掲載に関する規約をご覧いただけます。
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警備の仕事をもっと知りたい方は、こちらもご覧ください。


採用担当より
「50代半ばで仕事が決まらない」。これは採用の現場で本当によく見る壁です。前職の延長線上だけで探し続けて行き詰まる方が多い中、ケンジさんは第三者に事情を話し、異業種へ切り替える判断ができました。ここが8年続いている出発点だと思います。
一人で求人サイトと向き合うより、事情を汲んで提案してくれる相手を持つほうが、シニアの仕事探しは前に進みます。派遣・ハローワーク・自治体支援の使い分けは別の記事で書いていますが、ケンジさんの進め方はまさにその実例です。