「定年再雇用になったら給与が半分以下になった」「同じ仕事をしているのに給与が下がった」。こうした声を聞いたことがある方は多いでしょう。パーソル総合研究所の調査によると、定年後も継続勤務した層の60%以上が「給与・賞与が下がった」と回答しています。
採用担当として、多くのシニア求職者と向き合ってきた立場から言います。給与が下がることへの「覚悟の有無」は、採用担当に確実に伝わります。そして覚悟の有無は、その後の定着率にも直結します。この記事では、採用担当が面接で読み取る「覚悟ができている人・いない人」の差と、定年後に続く働き方の条件を正直にお伝えします。
「まだ気持ちの整理がついていない」シニアが面接に来る
定年後に転職や再雇用で面接に来るシニアと話していて、採用担当として「この人はまだ整理がついていないな」と感じる瞬間があります。きっかけはいつも同じ質問への答えです。
「月にいくらくらいの収入を希望しますか?」「週に何日の勤務を希望しますか?」。この2問に対して、明確な答えが返ってこないとき。あるいは希望する収入を持っていても、実際の働き方と時給の計算が合っていないときです。
採用担当はこのやり取りの後、整合性がないと判断すれば必ず確認します。「この条件ではご希望に届きませんが、それでも働く意思はありますか?」。この一言を添えることが採用担当として誠実な対応だと考えているからです。「整合性がないまま採用して、早期離職になる」のは、応募者にとっても職場にとっても損失です。
「給与が下がる」現実|数字で把握しておく
まず現実のデータを確認しておきます。パーソル総合研究所の調査によると、正社員として20年以上勤務した経歴を持つ層でも、60代前半の継続勤務者の60.0%、60代後半の65.1%が「定年後に給与・賞与が下がった」と回答しています。
多くの企業では、定年後の賃金水準を定年前の「6〜7割程度」に設定しているケースが最も多い(45%)です。一方で、人手不足を受けて「8割程度以上」を維持する企業も39%まで増加しており、企業ごとの格差が広がっています。
重要なのは、この「給与が下がること」自体は法的に問題がないという点です。名古屋自動車学校事件などの裁判例では、職務内容に変更がないのに6割を下回る場合は不合理と判断される可能性が示されていますが、一般的な再雇用での給与低下は制度として存在します。
「下がることへの不満」を面接で持ち込む人より、「下がる前提で自分がいくら必要かを計算して来た人」を、採用担当として採用したいと思います。
「長く勤めたことによる給与」と「市場価値による給与」は全然違う
定年後の給与が下がることへの「覚悟の有無」を、採用担当として面接で見るとき、一番のポイントは「自分の市場価値を理解しているか」です。
この発言が指している構造は非常に重要です。日本の終身雇用・年功序列の環境では、「長く勤めた」という事実だけで給与が上がります。しかしその給与の高さは、「会社があなたに払ってくれた金額」であって、「あなたが市場で稼げる金額」とは別物です。
FIG.1 / 長く勤めたことによる給与と、市場価値による給与のちがい
「これだけやってきたのに給与が下がるのはおかしい」という終身雇用世代の勘違い
今の60代以上の方が現役だった時代は、終身雇用・年功序列の恩恵を受けた時代でした。「長く勤めた=給与が上がる」という構造に慣れた世代です。しかしその給与は「あなたの実力への評価」ではなく「その会社の制度」が支払っていたものです。採用担当として、面接でこの勘違いが透けて見える方は少なくありません。「これだけやってきた」の中身を問い直してみてください。それは市場でどれくらいの人と差別化できるものか。本当に市場価値がある人は、仕事を探しに来る必要がなく、オファーが来るはずです。
これは批判ではありません。時代と制度の問題です。ただ、採用担当として言えば「その制度はもう終わっている」という現実と折り合いをつけた人だけが、定年後の働き方をうまく設計できています。折り合いをつけた人は、「今の自分がいくら稼げるか」という現在地から話せます。それが採用担当に伝わる「覚悟」です。
働く動機で「続く人・続かない人」が決まる
給与が下がっても長く続ける人と、早期離職する人の違いは、スキルよりも「働く動機の質」にあります。採用担当として観察してきた動機別の定着傾向を整理します。
| 働く動機 | 定着傾向 | 採用担当の見方 |
|---|---|---|
| 生活費の補填・年金の不足分を埋める | ◎ 続きやすい | 生活がかかっているため、多少の不満があっても続く。条件が明確で話しやすい |
| 体を動かしたい・健康維持 | ○ 続きやすい | 仕事内容と体力が合えば続く。ただし条件への意識が薄いケースも |
| 社会とつながりたい・貢献したい | △ 条件次第 | 本気度による。「つながりたい」だけなら仕事でなくてもいい場合が多い |
| 暇だから・家にいるのがつらい | ✕ 続きにくい | 「やっぱり違う」となりやすい。条件への意識が薄く早期離職リスクが高い |
「生活費の補填・年金の不足分を埋める」という動機を持っている人に、仕事を探す前に一度やってほしいことがあります。家の中に眠っている資産の確認です。
定年前後の世代は、長年使っていない骨董品・食器・カメラ・レコード・楽器などが押し入れや物置に眠っていることが多い。「どうせ売れない」と思っているものでも、専門の査定士が見ると思わぬ値がつくことがあります。月3万円を仕事で稼ぐより先に、家の中から数万円を引き出せる場合があります。生活防衛は、求人票を見る前から始められます。
「社会とつながりたい」動機の本気度を問う
「社会とつながりたい」という動機について、採用担当として正直に思うことを話します。
これは動機の「正直な部分」を引き出そうとしているのです。「社会とつながりたい」の奥に「月3〜5万円は必要」という現実があれば、それを正直に言えた方が採用担当にとって圧倒的に話しやすい。曖昧な動機より具体的な動機の方が、条件の整合性を確認できます。
「今いくら必要かが明確な人のほうがいい」。これが採用担当の本音です。前職でいくら稼いでいたかより、今の生活に月いくら必要か。この数字を持って来た人との面接は、建設的な会話になります。
時給だけで選ぶと続かない|覚悟の整理の仕方
「生活費のために働く」という動機は定着率が高い傾向があります。しかし、この動機を持っていても失敗するパターンがあります。それが「時給だけで仕事を選ぶ」ケースです。
時給(金額)だけで選ぶと、内容・シフト・体力との乖離が起きる
「月3万円必要→時給1,200円の仕事を選んだ→週4日・1日6時間のシフトが必要だった→体力的に続かなかった」というパターンは珍しくありません。時給の高さだけで応募すると、実際の働き方(きつさ・シフト・通勤など)の現実と乖離します。「これぐらい稼ぐ必要があるけど、実際にその働き方ができるか」。この両方を確認してから選ぶことが、長く続ける条件です。
◯ 働き始める前に整理すべき3点
- 月にいくら必要か:年金収入・固定費・生活費から「不足分」を具体的な数字で出す
- 週に何日・何時間なら無理なく続けられるか:体力・通院・介護を考慮した「現実の日数」を把握する
- その時給と日数で目標金額に届くか:時給×時間×日数を計算して整合性を確認する
「面接の受け答えの明確さ」=「定年後のイメージの解像度」
採用担当として面接で気づくことがあります。「定年後の自分がどう働くか」を明確にイメージできている人ほど、面接での受け答えがはっきりしています。「週に何日入れますか?」「月にどれくらい稼ぎたいですか?」。こういった質問に対して迷いなく答えられる人は、すでに自分のイメージを持っている人です。
逆にぼんやりしている人は「なんでもいいです」「おまかせします」という答えが続きます。採用担当の立場では、この答えが続くと「条件が合わなかったときに突然辞めるリスクが高い」と判断します。覚悟の整理とは、大げさなことではありません。「月○万円・週○日・○歳まで」という3つの数字を自分の中で決めておくことです。
FIG.2 / 定年後に「続く人・続かない人」を分ける面接での差
採用担当が伝えたいこと|定年はただの中間点
最後に、採用担当として一番伝えたいことをお伝えします。
「採用してくれてありがとうございました」。採用したシニアから数ヶ月後にこの言葉をもらったとき、採用担当として心から嬉しいと感じます。生き生きと働いている姿を見るとき、「この人の定年後の人生の一部に関わることができた」という感覚があります。
採用担当は採用のゴールを「入社」に置いていません。「長く続けてもらうこと」がゴールです。だからこそ、覚悟が整っていない人を採用することが、その人のためにならないと知っています。面接でしっかり確認するのは、そのためです。
趣味でガス抜きできる人が長続きする
採用したシニアを見ていて「この人は定年後の人生をうまく生きているな」と感じるのは、趣味を持っている人です。仕事だけでなく、自分のガス抜きの場を持っている人は、長く続く傾向があります。
これは「仕事に全力を注ぐな」という意味ではありません。仕事以外の充実が、仕事への継続力を支えるという構造です。定年後に「仕事しかない」という状態は、かえって仕事の小さな不満が大きく見えやすくなります。趣味・コミュニティ・家族との時間。こういったオフの充実が、仕事を続けるための土台になります。
60歳で定年を迎えても、人生100年時代では残りの時間は40年以上です。給与が下がることへの覚悟、今の自分の市場価値を正直に知ること、働く条件を数字で整理すること。この3つが定まったとき、定年後の「第二の現役期」が始まります。
採用担当として、そういう方を採用したいと思っています。そしてそういう方が面接に来てくれたとき、採用の会話は自然と建設的になります。
◯ この記事のまとめ
- 定年後に給与が下がることは制度上の現実。60代前半の60%以上が給与低下を経験している
- 「長く勤めたことによる給与」と「市場価値による給与」は別物。どちらだったかを正直に見る
- 働く動機で定着率が変わる。生活費補填目的は続きやすく、暇つぶしは続きにくい
- 時給だけで選ぶと仕事の実態と乖離して早期離職になる。月○万・週○日・○歳まで を先に決める
- 面接の受け答えの明確さ=定年後のイメージの解像度。数字を持って来ることが覚悟の証明になる
- 定年はただの中間点。給与・市場価値・条件の整理が、第二の現役期の出発点になる
よくある質問
定年後に給与が下がるのは違法ではないのですか?
一般的な再雇用で給与が下がること自体は制度として存在し、違法ではありません。ただし職務内容が定年前と変わらないのに大きく下がる場合など、不合理と判断された裁判例もあります。まずは自分の再雇用条件を具体的に確認することが大切です。
面接で希望収入をはっきり言うと、採用に不利になりませんか?
むしろ有利になりやすいです。採用担当は「月いくら必要か」を具体的に言える人を、条件の整合性が取れる相手として信頼します。「おまかせします」という曖昧な答えより、数字を持っている人のほうが早期離職のリスクが低いと見ています。
前職の給与を基準に希望を伝えてもいいですか?
前職の金額よりも「今いくら必要か」を基準にすることをおすすめします。前職の高い給与は勤続年数や会社の制度による部分が大きく、市場価値とは別物です。現在の生活に必要な額から逆算した希望のほうが、採用担当と建設的に話せます。
給与が下がっても長く続けるコツはありますか?
「月○万円・週○日・○歳まで」を先に決めることです。時給の高さだけで選ぶと、シフトや体力の実態と合わず早期離職につながります。必要な額と無理なく働ける日数の両方を確認してから選ぶことが、長く続ける条件です。

