「女性シニア歓迎」「未経験でも安心」——警備員の求人を検索すると、こうしたページがいくつも出てきます。けれど、私が採用の現場で見てきた景色は、それとはまったく違います。
そもそも女性の警備員は少ない。シニア女性となると、さらに少ない。これは個人の能力や努力の話ではなく、市場が長年かけて出してきた「答え」です。この記事は、シニア女性の警備員応募を考えている方に向けて、採用担当として正直に「あえてすすめない」と伝える内容です。代わりに、もっと相性のいい選択肢も合わせて提案します。
データが示す「女性シニア×警備」の現実
まず、感覚の話ではなくデータから入ります。警察庁が毎年公表している「警備業の概況」(令和6年版・2025年7月公表)では、全国の警備員総数と男女比、年齢別の構成が詳しく出ています。
警備員のうち、女性は10人に1人もいません。これは女性の警備員全体の数字です。ここからさらに「シニア(60代以上)」「未経験」と絞り込んでいくと、母数はもっと小さくなります。
一方で同じ統計のなかでも、警備員の年齢構成は高齢化が進んでいて、70歳以上が最大年齢層を占めるなど「シニア×警備」自体は決して珍しくありません。つまり、シニアが警備で働くこと自体は珍しくない。けれど、そのほぼすべてが男性なのです。
FIG.1 警備員の男女比(警察庁・令和6年「警備業の概況」より)
「需要が少ない」のは狙い目という意味ではない
ここで多くの記事が陥る罠があります。「女性が少ない=ブルーオーシャン=狙い目」という言い方です。これは警備の現場をよく知らない発想です。
需要が少ない、応募が少ない、定着していない——この状態が長年続いているのは、ほとんどの場合「相性が良くない」ことの表れです。市場が何十年もかけて「ここには女性シニアが向いていない」という結論を出しているのに、サイトの一文で「狙い目」と言い換えても、現実は変わりません。
採用担当として見てきた「実際の応募・採用」の景色
データだけではなく、現場の景色を共有します。私はコールセンター・マンション管理・警備など、複数業種が同席する合同説明会の現場に何年も立ってきました。シニアの来場者を間近に見続けてきた立場から、警備ブースの景色をお伝えします。
警備ブースには男性しか並ばない、というほど男性ばかり
警備のブースには、年齢を問わず男性が圧倒的に多く集まります。シニア女性が警備ブースに足を運ぶ姿は、年に数えるほどしか見ません。マンション管理や清掃のブースには高齢の女性が並んでいるのに、警備の前には誰も立たない——その対比はとても象徴的です。
これは「女性シニアが警備のことを知らないから来ない」のではありません。むしろ、警備という仕事のイメージは万人が共有しているからこそ「自分には合わない」と判断しているわけです。
仮にできるとしたら「施設内警備の事務寄り業務」
では、女性シニアが警備で活躍する余地はゼロかというと、まったくないわけではありません。たとえば商業施設の館内アナウンスや迷子センターの対応、受付兼務の警備など、「警備」と名前はついていても実態は事務・接客に近い業務はあります。
ただし正直に言うと、こうしたポジションは経験者枠が中心です。長年同じ施設で勤めてきたベテラン女性が、年齢を重ねながらこの業務に移行している、というケースが多いと感じます。「未経験のシニア女性が、ここから1から入る」というルートは現実的に狭い。
FIG.2 女性シニアの警備で「ありえる入口」と、その現実
夕方以降の壁——介護・通院・家族の都合
もうひとつ、警備の応募で女性シニアが直面する大きな壁があります。「夕方以降のシフトに入れない」という事情です。
家族の介護、定期的な通院、子や孫のサポートなど、シニア女性は夕方以降に時間を取られる事情を抱えていることが少なくありません。私が見てきた範囲でも、施設警備に応募してきた女性が不採用になった理由のほとんどは「シフトが合わない」でした。
「誰でもできますよ」と見せる求人・サイトへの違和感
ここまで読んでいただいた方は、「女性シニア歓迎」と書いている求人やまとめ記事を見て、違和感を抱いていただけたのではないでしょうか。
業界全体で人手不足は本物です。だから警備会社のなかには、説明会に女性責任者を立たせて「女性も体力に不安があっても働けますよ」とアピールする会社もあります。これは戦略としては理解できますし、敷居を下げて応募の母数を増やすという企業判断としては合理的です。
けれど、求職者の視点に立ったとき、「敷居を下げてでも来てほしい」と「あなたに本当に合っている」は別物です。前者で応募してきた人が後者の状態に着地できるかどうかは、まったく保証されていません。
こういう求人・記事には注意したい
- 「女性シニア活躍中」「主婦歓迎」のキャッチコピーだけが目立ち、業務内容・シフト・配属先の具体が薄い
- 業務内容に「施設警備」と書かれているのに、実態は屋外巡回や夜間勤務が含まれる
- 「未経験でも安心」と書かれているが、研修期間・指導体制・最初の配属先が明示されていない
- 「シフト相談可」とあるのに、面接で具体に聞くと「夕方以降は必ず月◯回」など条件が出てくる
「人がいない」のには明確な理由があります。よく見せる求人ほど、現実とのギャップが大きいことが多い——これは警備に限らず、シニアの仕事探し全般で意識しておきたい視点です。
女性シニアにすすめたい現実的な選択肢——マンション管理(清掃中心型)
では、警備員として働きたい意欲のある女性シニアに、私は何をすすめているか。最初に提案するのはマンション管理(清掃中心型)です。
マンション管理は「はまれば女性のほうが長く続く」
これは別の記事で詳しく書いた話ですが、マンション管理人(清掃中心型)は、女性シニアと相性のいい仕事のひとつです。私が採用の現場で見てきた範囲でも、警備よりはるかに女性の応募が多く、定着している方も多い。
「細かいところに目が付きやすい、心配りができる」——これはマンション住民にとってもうれしい価値で、女性シニアの強みがそのまま活かされやすい職場です。屋内中心で気温差が少なく、シフトも比較的固定されているため、夕方以降の家族の都合とも両立しやすい。
もうひとつの選択肢——コールセンター(在宅・パート)
体を動かす仕事より、座って話す仕事のほうが向いていそうな方には、コールセンターのパート・在宅勤務という選択肢もあります。シニア女性のコールセンター応募は近年確実に増えていて、私自身も多くを採用してきました。
身体的負担が少なく、悪天候や猛暑の影響を受けにくい。在宅勤務であれば通勤時間もかかりません。警備とは別ベクトルの「シニア女性に向いている仕事」として、検討する価値があります。
それでも警備に挑戦したい女性シニアへ
ここまで「すすめない」立場で書いてきましたが、最終的に何を選ぶかは本人の自由です。「それでも警備で働きたい」という気持ちがある方に、現実的なアドバイスをいくつか伝えます。
1. 施設警備に絞って探す
交通誘導や運搬警備、雑踏警備は、シニア女性が新規で入る業務としては正直厳しいです。屋内中心の施設警備に的を絞り、できれば商業施設・オフィスビル・病院など、室内で空調が利いている現場に応募してください。
2. 夕方以降のシフト可否を、面接で必ず正直に伝える
「夜勤はできません」「夕方以降は家族の都合で難しい日があります」と隠さず伝えることは、ぜんぜん悪い印象を与えません。むしろ後で発覚するほうが採用側にとって困ります。正直に伝えた上で採用される会社のほうが、結果的に長く続けられます。
3. 「女性責任者がいる説明会」だけを判断材料にしない
説明会で女性責任者が登壇していると、それだけで「女性が働きやすい会社」に見えますが、それは入口の戦略です。実際にその会社で働いている女性比率、シフトの自由度、休みの取りやすさを必ず確認してください。これらは面接や説明会で聞いていい質問です。
面接で必ず確認したい質問リスト(女性シニア向け)
- 女性警備員は現在、社内に何名くらい在籍していますか
- 女性警備員はどんな現場・施設に配属されることが多いですか
- シフトは何曜日・何時から固定になりますか/変更可能ですか
- 夜間・早朝勤務が必須の現場ですか
- 研修期間はどれくらいで、研修場所と勤務地は同じですか
- 異動や配置転換の可能性はありますか
これらは「採用前に聞きすぎる」と落とされるリスクがある質問もあります。けれど、入社してから「聞いていなかった」と後悔するくらいなら、面接の場で勇気を持って聞いたほうがいい。私が採用担当として接する側であれば、これくらい質問してくれる方は「真面目に検討してくれている」と好印象に映ります。
まとめ——「すすめない」と「ダメ」は違う
この記事のまとめ
- 警備員のうち女性は7.3%。シニア女性となると、さらに少ない
- 「需要が少ない=狙い目」ではなく「相性が良くない」という市場の答え
- 女性シニアの警備応募は、夕方以降のシフトが最大の壁になる
- 仮にあり得る入口は施設内警備の事務寄り業務だが、経験者枠が中心
- 「女性シニア歓迎」と書かれた求人ほど、現実とのギャップに注意したい
- 最初に検討してほしい現実的な選択肢はマンション管理(清掃中心型)
- もうひとつの選択肢としてコールセンター(在宅・パート)もある
- それでも警備に挑戦するなら、施設警備限定で、シフト条件は面接で正直に
私はこの記事で「女性シニアは警備員になれない」と言いたいわけではありません。なれる方もいますし、実際に活躍している方もいます。ただ、採用の現場で見続けてきた立場として、「狙い目」というポジティブな言葉だけを並べて応募を促すことには、責任を感じるのです。
市場が長年かけて出している答えがある。その上で「自分はそれでも挑戦したい」と決めるのは、本人の自由ですし、応援したい気持ちもあります。けれど、入る前に知っておくべき現実は、入る前に知っていただきたい。それがシニアの仕事案内所として、私が伝えたい姿勢です。
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